第71章 ピュイっ!
その嬉しい申し出に、私はありがたく頷いた。
主人が手綱を持って、ヴォーパルをサークルの中に連れて行く。その後ろに、私達も続いた。
「そういえば、乗馬の経験はあるの?
春人くんは、何でも器用に熟すから、何も心配はしてないけど」
『まぁ、幼い頃に…』
「やっぱり経験あるんだ!君って本当に何でも出来」
『幼稚園生の時、ポニーに乗せてもらった事があります』
「それ乗馬にカウントしていいヤツ!?」
「「どう考えても駄目なヤツ…」」
天と楽が、口を揃えて言った。さっきまで言い争っていたとは思えないシンクロ率である。
『まぁでも、私はバイクに乗りますし。跨り慣れてますよ』
「つ、ついに動物ですらなくなっちゃった…」
「跨り慣れてるって言い方も、あまりよくないと思うけど…」
準備万端!とばかりに小さく嗎きを上げるヴォーパル。対して、こちらはまだ心の準備が整わない。
私はヴォーパルの正面に立って、語り掛ける。
『えっと、ヴォーパル。私は、その…初めてなもので、勝手が分かりません。恥ずかしながら、貴方に身を預けてもいいですか?』
「お、おい春人。その言い方は、なんかちょっと違う」卑猥だ
「ヴォーパルの目、なんかエロくない?」気のせい?
「春人くん…」たまに天然だよなぁ
ぐずぐずしている私に痺れを切らしたのか、ヴォーパルはバクっと背中を噛んで、強引に持ち上げた。あっという間に私はヴォーパルの背に跨る形となる。
ただし…反対向きに。
『あっ、は、初めてなのに、こんなマニアックな体勢で!?』
「なぁ、あいつもしかして、わざと妙な言い回ししてるんじゃねぇのか?」
楽は、後ろ向きに跨る私に冷たく言い放った。