第71章 ピュイっ!
「それにしても、本当に立派な馬ですね…!大きくて綺麗で、カッコイイなぁ」
「あぁ…だが見ての通りのじゃじゃ馬で、気性も荒くて困っとる」
「この子の名前はなんていうんですか」
「ヴォーパルっちゅー名前だわ」
天は、主人から馬の名前を聞く。すると龍之介が、ヴォーパルの正面へ回って 顔の前に手を出した。
「カッコイイ名前だね、ヴォーパル」
鼻面を撫でようとした龍之介。私は急いで彼の腕を掴んで、自分の方へ引く。直後、顔を突き出した馬がガチン!と上の歯と下の歯をかち合わせた。
「あ、危なかった…!ありがとう、春人くん」
「はは。龍、こいつがいなかったら指がなくなってたかもな」
怖い事を笑って言う楽を、天は冷ややかな目で見つめていた。
「それにしても、俺も龍もすげぇ嫌われようだな。ひょっとしてヴォーパルは、人見知りなのか?」
「……ヴォーパル」
天は名を呼んで、優しく微笑みかける。そして ゆっくりと、その美しい鼻筋に手をやった。
するとどうしたことだろう、ヴォーパルはしぶしぶにではあるが、天の手を受け入れた。何の攻撃もしないで、大人しく撫でられている。
「何で俺と龍は駄目で天はいいんだよ」
「天の事が好きなのかも!あはは、いいなあ」
私はというと、馬と仲良く触れ合う天を見て、なんだか羨ましく感じていた。
出来ることなら、私も乗馬というものを体験してみたいと思い始めていた。