第71章 ピュイっ!
いよいよ練習を終え、本番の撮影に入る。
下見段階で、撮影地はここしかない という場所を確保してあった。そこは爽やかな雰囲気の森林で、降り積もる雪が相まって、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出していた。
深々とした深緑色、きらめく雪の白銀。そして冴え渡る青空のコントラストが見事であった。
撮影は無事に終わり、私とTRIGGERメンバー、スタッフとカメラマンは厩舎へと戻って来る。
「少し寒かったけど楽しかったね!」
「そうだね。白銀の中、馬と走るのは気持ち良かった」
「滅多に来れないのは分かってるけど、また来たいよな」
3人は、名残惜しそうにパートナーである馬達とお別れをした。
再び馬房へと戻る馬達も、どこか寂しそうなのは気のせいではないだろう。
その時。私達の耳に、雄々しい嗎(いななき)が飛び込んで来た。
そのあまりに迫力のある鳴き声に、全員が顔を見合わせる。
声のした方へと自然と足が向いた。
そこには、主人の姿があった。そして、彼は1頭の馬を馬房へ戻そうと格闘していた。
「こりゃ、暴れるな!大人しく入らんか」
「うわ、すげぇ…!立派な馬ですね」
その馬は、パールグレイのつやつやとした毛並みに、屈強な筋肉を持ち合わせており。明らかに他の馬達とは迫力も雰囲気も一線を画していた。
後ろから近付いた楽を、顔だけ向けてギラリと睨んだ。
私は急いで楽の腕を掴んで、自分の方へ引く。すると、すぐに馬の後脚がギュンと飛んで来た。
「っ、危な!」
『後ろから近付くから』
「プロデューサーがいなかったら、楽の体には見事な馬蹄マークが刻まれてただろうね」
冷静に言い放った天を、楽は恨めしそうに睨み付けた。