第71章 ピュイっ!
「……取り込み中のところ悪いんだが、そろそろ馬っ子連れて来てもええかの」
『あ…ご協力ありがとうございました。よろしくお願いします』
主人までもを、センスのないドッキリに巻き込んでしまった事を謝罪する。
しばらくすると、男は従業員と共に3頭の馬を連れて来た。白、黒、薄茶色の、今度こそ正真正銘の馬。
事前説明で、牝馬だから小柄と聞いていたのだが。それにしては大きい。メスでこの大きさなら、牡馬はもっと大きいのだろうか。
サークル内で、早速 馬に跨るメンバー達。インストラクターも兼ねて従業員に側に付いてもらっていたが、その必要はないくらいスムーズに騎乗出来たようだ。
私は、白馬に跨った天に声を掛ける。
『天も馬も雪も、全部が白いので見失ってしまいそうです』
「じゃあ、見失わないように1秒だって目を離さない方がいいね」
『ふふ、分かりました。注意しておきます』
冗談めかして言う天に笑顔を返し、私は楽の元に向かった。
3人の中で、1番軽快に馬を走らせる楽。私が近付いたのを確認すると、すぐに手綱を引いた。
『さすが、馬の扱いがお上手ですね』
「いや、こいつが良い馬なんだ」
楽は、薄茶色の美しい鬣(たてがみ)を撫でた。馬は うっとりと瞳を潤ませる。
この短時間で、1人と1頭の仲はすっかり馴染んだようだ。それにしても、絵になる構図だ。
『楽、そのヘアスタイル似合ってますね』
「そうか?あんたが言うんならそうなのかもな。でも、なんとなく俺は落ち着かねぇよ」
彼は、いつもとは違うストレートな髪を1束 摘んで言った。いつものふわふわでウェーブがかった髪でないのが、落ち着かないらしい。
しかし、衣装に合わせて整えられた真っ直ぐな銀髪が、彼をより高貴な姿に魅せていると私は思った。