第71章 ピュイっ!
貴族を思わせる、乗馬服に身を包んだ3人。そんな彼らを連れ、厩舎の主人は自ら馬の元へ案内する。
私はその後を付いて行き、声を掛けた。
『皆さん、乗馬の経験はあるんですよね』
「あぁ。俺と天は、大河撮った時にみっちり稽古したからな」
「でも、それ以来だからね。まだ体が覚えてるといいけど」
「俺も2人ほどじゃないけど、仕事関係で乗った事はあるよ」
今日は動画ではなく静止画の撮影なので、それで十分だろう。
そうこう話している間に、目的の場所へ到着したらしい。主人の足が止まった。
そして前方を指差し、3人に向け声を張る。
「ほれ!今日、お前さんらの相手を務めるのは、この3頭だ!」
「「「えっ…!!」」」
驚く3人を前に、その生き物は呑気に鳴き声を上げる。
「……モーー」
しばらく、牛に釘付けになるTRIGGERだったが。やがて、3人同時に私の方へ向き直った。
そのタイミングで、私はあらかじめ隠しておいた “ ドッキリ大成功 ” と書かれた立て札を掲げる。
『反応がいまひとつですね。
びっくりしたでしょう?馬がいると思いきや牛だったドッキリ』
「カメラも回ってねぇのにドッキリ仕掛けて来るな!」
『普段からリアクションの練習をしておいた方が、本当のドッキリで良い反応が出来るでしょう』
「それなら、もう少しまともなドッキリ用意しておいてくれない?雑過ぎて練習にもならない。
前から言おうと思ってたけど。キミ、ドッキリのセンスが壊滅的」
『う…』
天の辛辣な言葉が胸に突き刺さり、相当なダメージを負う。藁にもすがる思いで、私は龍之介のいる後ろを振り返った。
「え…っと、たしかに…あんまり、面白くないかなぁ」
『……ごめんなさい。センス磨きます』
普段めっぽう私に優しい男の厳しい言葉は、的確に私の胸をえぐるのだった。