第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
「ボクも、プロデューサーが喜んでくれて嬉しいよ。
今回の仕事は やりがいのあるもののはずなのに、キミはどこか…心から喜んでるように見えなかったから」
「あぁ。俺もそう感じてた。でも、そりゃ俺達の勘違いだったみたいだな!
とにかく、これでいつもみたいに一丸になって挑める」
「うん、良かった。やっぱり春人くん抜きじゃ話が進まないからね。
頼りにしてます!プロデューサー!」
私が心から喜ばないことを、彼らがここまで気にしていたとは予想外だった。
どうやら この3人の中で私は…もうとっくに、TRIGGERにとって必要な存在として組み込まれているらしい。
嬉しくて、気恥ずかしくて、くすぐったい。私は照れを隠すように小さく笑った。
そんな私の肩を、ガッと組んだ楽。
「これでようやく、前祝いが出来るな!」
『え…それは、昨日済ませたのでは?』
「実はね、まだやってないんだ」
「ふふ。キミがいないと、始まらないでしょ」
「ほら、さっさと行こうぜ。もう飲めないとは、言わせないから な?」
肩を組んだまま、私を引きずるように歩き出す楽。
顎に手をやって、綺麗に目を細める天。
心底嬉しそうに、最後尾をついてくる龍之介。
私達は4人揃って、姉鷺が待つ車へと向かうのだった。
今日、千葉氏に告げた言葉に、嘘 偽りは一欠片もない。
綺麗な道を歩き続ける事は選ばない。
もしまた、汚い取引や契約の機会があれば私は応じる。
彼らと同じ景色は…見れなくても良い。
これらの覚悟が揺らぐ事は、きっともうない。
ただ、今夜だけ。
この大プロジェクトの主演を、一切のコネなしで掴み取ったという事実を知る事が出来た、今夜だけは…
私も、彼らと同じ喜びを共有したい。
彼らと、同じ景色を臨みたいと そう願ってしまう。
ただ、大切な仲間達と同じ喜びを共有したい。そんな望みは、人によっては儚い願いと取られるかもしれない。
しかし私にとっては、この上ない 幸福なのだ。
笑い合う私達を、薄い三日月だけが見つめていた。