第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
私は、最後に楽に向き直る。
「ん」
『……』
楽は、今度は自分の番だろう?とでも言いたげに、こちらに向かって腕を大きく広げていた。
「…待ってる」
「待ってるね…」
『何だか、待たれると違いますね』
「なんで俺だけ仲間外れにすんだよ!寂しいじゃねぇか!」
私は薄く笑って、嘘ですよ。と呟いた。それから、広げられた腕にゆっくりと身体を預ける。
『月舘信八郎役、おめでとうございます』
「おう」
『やっぱり、主役は貴方でないと務まりませんよね。プレッシャーも勿論あると思いますが、期待していますよ。リーダー』
「任せとけ。三日月狼を知ってる奴ら全員に、俺が信八郎役で良かったって思わせてやる」
歯を見せて笑う、子供みたいな表情。そんなあどけない顔とは裏腹に、その腕と熱からは 自信と覚悟がありありと伝わって来たのだった。
楽は私の背中を、ポンポンと雑に2回叩いてから言う。
「あんた、わざわざそれを言いにここへ来たのか?なんで今更…」
『嬉しいから、嬉しいって伝えに来たんですよ。駄目でした?』
「んなこと言ってねぇだろ。
はは!お前も喜んでんだって分かって、めちゃくちゃ嬉しいよ」
その時。天が、私と楽の間に ずいっと身体を割り込ませた。
「っていうかプロデューサー、酔ってるでしょ」
「あ!もしかして大和くんと飲んでたのかな?」
「二階堂と?
へぇ。で、酔った勢い借りて、俺達におめでとうって言いに来たのか。
ほんと、お前って…」
私は、勝手に楽の言葉の続きを先読みする。
どうせ、馬鹿だな。とか、しょうがねぇな。とかに違いない。
しかし、彼の口からは予想外の言葉が飛び出す。
「可愛い奴だな」
『!』
頬が熱く感じるのは、きっと飲酒のせいだろう。