第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
そして私達は、千葉亭を後にした。
結局、大和母には会えなかった。ほっとした気持ちと、残念な気持ちが混在している。
『あ!』
「どうした?」
私は、正面玄関を出てから1.2分歩いた辺りで、ある事を思い出して立ち止まる。
『たしか、大和が今日ここに来た理由って、何か荷物を取る為って言ってたよね』
「あー…そうだった、なぁ」
『大和、手ぶら!忘れちゃった?
私、ここで待ってるから取ってくればいいよ』
幸いな事に、まだ家を出たばかり。引き返すには全く問題のない距離だ。
しかし大和の足は、家に向かう事をしなかった。
「また今度でいいわ、だから大丈夫」
『急ぎのものじゃないの?でも、用事は早めに済ませた方がいいでしょ。1人で戻るのが気不味いなら、私も付いて行ってあげようか?』
「………」
(もし荷物を取りに来たこと自体が、エリといる為の口実だった。なんて知れたら…
またあんたに、嘘吐きだって言われちまうんだろうなぁ。
だから…それは、内緒だ)
『…大和?』
「あはは、悪い。ぼーっとしちまった。
荷物は、ほんとに大丈夫だから」
『そう?私の事なら、気にしなくていいのに…』
首を傾け、窺うように言う。大和は、そんな私の頭に手を乗せた。そのまま ぽんぽんと、子供にするみたいに褒める。
「いいんだって。あんたは優しいなぁ。ほら、いい子いい子」
『ちょっ!やめ、髪が乱れるでしょっ』
私は、自分の頭に乗った大和腕を取る。
と。そんな、側から見たらイチャイチャ?している2人の様子を、密かに見つめる人物がいた。それは…
「あら…あらあらあら」
「げ」
『っ……!』
……オーマイゴット。
いや、違うな。ここは、オーマイマザー。
だろう。