第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
『……大和…』
「………ぅ…」
『格好良い…っ』
「カッコ悪ぃ…」
『「えぇ!?」』
私達の口からは、正反対の言葉が発せられた。そして、2人してそれに驚きの声を上げた。
「…あーんな自信の無さ爆発の告白、格好良いわけねぇだろ。何言ってんの」
『大和は、格好良いよ。
その一見して氷のように冷たい瞳の奥には、その実リベンジの熱い焔が燃え盛っているのであった…!』
「ナレーションっぽく言うなって!恥ずかしいだろ!なんだよ、くそ…っ!あー、やっぱこんな話するんじゃなかった!」
大和は、勢い良く立ち上がって 意味もなく頭をかいた。
「今すぐ恥ずかしい記憶なくしたいから…コレ、付き合ってよ」
大和は、手でくいっとお猪口を煽る仕草を見せる。
『ふふ、いくら飲んだって記憶なくしたりしないくせに』
「いいんだよ。あんたと飲む口実なだけなんだから」
『なるほど、上手く話を繋げたねぇ』
「当たり前っしょ。俺の頭の中は、いつだってお前さんといる為の理由探しにフル回転してんの」
『あはは、そんな可愛い大和に免じて、奢りなら付き合いましょう!』
「マジで?やったね。そうと決まれば早く店行こうぜ」
くるりと私に背を向けると、大和は頭の後ろで手を組んだ。しかし、すぐに真剣な表情でこちらに向き直った。
「そういえば…俺も、エリに訊きたい事があるんだった」
『なに?』
「…答え辛いだろうから、無理して教えてくれなくていい」
『え、何それ。ちょっと怖いな!なに?』
「……女の人が着物の時って、パンツはかないって…マジ?」
『はいとるわ』
大和は残念そうに笑った。馬鹿な質問をぶつける事で、明るく振る舞おうとしているような気がしないでもないが…。まぁ、ここは流されてやろう。
そんな大和は、扉に向かって足を踏み出した。私は、彼のその背に言葉を投げる。
『大和』
「ん?やっぱ飲み行かなーいとかは無しよ」
『嬉しかった。大和が、月舘信八郎役を演じたいって思ってたこと。今すぐじゃなくても、いつかでもいい。
私も、いつか絶対に観てみたい。
大和が、三日月狼の主役を演じるところ』