第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
「…んな事訊いて、あんたにどんなメリットがあるわけ」
『知的好奇心が満たされる』
「頭に “ 知的 ” って言葉付けりゃ正当な理由になると思うなよ。結局ただの野次馬根性じゃねえか」
『そうだよ。ただ興味があるだけ。悪い?私が大和に興味持ったら。貴方の事を知りたいと思ったら、駄目だった?
不愉快にさせたなら、もう訊かない』
私は下から、大和を真っ直ぐに見つめた。彼は、うっと言葉を詰まらせる。
やがて、諦めたように溜息を吐いた。
「はぁ…だから 俺、あんたのその目に弱いんだって。っていうか、その言い方は狡いだろ。
んー…分かったよ。話してみるから、ちょっと待って」
『随分と覚悟がいるんだね』
「覚悟もいるし、気合いもいるし脳ミソも使う。お兄さん、自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん」
しばらく大和は、考え込んだ。真剣な表情で、口を真一文字に引き結んでいる。
チクタクという秒針の音を耳が拾って、今更ながらこの部屋に時計がある事に気が付いた。
「…悔しくない。とは言わない。
でも、現段階では、俺よりも八乙女の方が適任なんだろうなぁって素直に思うよ」
『現段階では?』
「ああ…。
もっと色んな役演らせてもらって、場数踏んで。アイドルとしてももっと周りに認められて。そしたらいつか…
八乙女と、肩並べて張り合っても恥ずかしくないって、自分で思えるようになれるかもしれない。
そんな気持ちを持つ事自体、おこがましいかもしれないけど。それでも、そんな時がもし来たら その時は…。勝負、してみたいと思う。
そんで俺が、月舘信八郎役を勝ち取ってみせる」