第9章 抱いて差し上げましょうか?
「じゃあ、受付で見せた写真は…」
『勿論、こんな物は偽物ですよ』
私は茶封筒を、バサリとテーブルの上に放り投げる。すると中からは 昨日作成した加工写真が飛び出した。
「…すみません。用事を思い出しましたので」
『そんな都合良く、逃げ果せるとでも?』
私は狸男を睨み上げる。
「…まぁ、そうですよね。分かりました。御用件をお伺いしましょ」
諦めたように、どかっと椅子に座り直した。私はMONDAYを開き、男に見せ付けながら言った。
『率直に申し上げます。うちの十龍之介は、ただ酔っていた女性を部屋に送り届けただけです。まして泊まったなんて事実は全くありません。
根拠の無いこの記事に対して、謝罪文を書いて頂きたい』
「…さぁ?うちは、ただの事実を写真に撮っただけ。彼が彼女のマンションに入って行った事が真実なのは、その写真が物語っているんですよ」
白々しく言葉を吐く。本当に、狸みたいな男だ。
『…泊りだなんて、証拠は無いでしょう』
「そうですねぇ…ま、我々は、十君がマンションから出て来るところを見ていない。それが根拠ですかね」
『…っく、』
そんなものは、何の根拠にもなりはしない。龍之介が出て来るところを、わざと見逃したに決まっている。
しかし、こんな事を議論したところで水掛け論で終わってしまう。なんの意味も無い。
『それなら、せめて相手の女性について教えて下さい』
「…さー、我々も このモデルとは繋がっていないんでね。連絡先も知らないし、何処の誰かも分からないんですよー」
…そうか。あくまでシラを切るつもりか。それならば仕方ない。ここでいくら粘ってももう無駄だろう。
しかし…収穫はあった。
失礼します。と この場を去る私を、男は追いかけてはこなかった。