第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
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『び……』
「び?」
『びびったぁ!!びびった!超びびったあ!千葉 志津雄に楯突いちゃったじゃん!私 歯向かってたよね!?なんであんなこと馬鹿正直に言ったんだろ!?いやヤバイって!あの人にかかれば私を社会的に殺すのなんて簡単だよね!?っていうかイケメン!イケおじ!近くで見たらやっぱ渋い!カッコいいよー千葉 志津雄ー!!』
「とりあえず落ち着け、頼むから」
私にガクガクと揺さぶられる大和は、されるがままだ。
ちなみにここは、大和の自室。いや、正しくは自室だった部屋だ。
彼は家を出て自立するまで、ここで暮らしていたのだという。
絵に描いたような学習机に、衣装箪笥。物自体が少ないせいもあるが、綺麗に片付いている。この部屋の主が居なくなった後も、常にこの綺麗な状態が保たれているのだろう。
大和は ずれた眼鏡を定位置に押し上げて、気不味そうに口を開いた。
「なんていうか…悪かったな」
『いいよ。はっきり確かめなかった私も悪かったんだし』
彼は、自分がクレセントウルフのキャスティングに関わっていなかった事を謝罪した。
そして、私にあたかも自分が関与しているかのように見せかけた事も。
「含みを持たせた言い方しときゃ、あんたなら誤解してくれるって分かってたんだ」
『ふふ、見事にハマったよ。1年前の約束を果たしてくれたんだなぁって』
「あぁ。ごめん、な」
『うん。素直でよろしい』
「怒ってないのか?」
『怒ってないよ、大丈夫』
大和は私の様子を伺い見てから、良かった と息を吐いた。
『でも、それじゃなんで3人が主演役独占したって知ってたの?』
「親父の知り合いが、頼んでもねぇのに勝手に喋ってくれたんだよ。大和さん、確かTRIGGERと仲が良かったですよねー?っつって」
なんとも口の軽い関係者もいたものである。守秘義務も何もあったものではない。