第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
素っ頓狂な声が口を突いて出た。意味が分からず放心しかけたが、すぐに自分を取り戻す。そして、ばっ!っと大和の顔を見た。
すると彼は、気まずそうな顔を大きく背ける。大和お得意の、斜め45度の方向見つめだった…
私は、しどろもどろになりながらも、なんとか事態の収拾に努める。
『すみません、どうやら、勘違いだったようで。
てっきり私は、大和さんの口添えで、オーディションに来たTRIGGERを千葉さんが選んでくれたのかと』
「僕はキャスティングには関与していない。もっとも、これからクレセントウルフには何かと関わる場面が出て来るかもしれないが」
『は、はい…』
「彼らが、揃ってオーディションに受かった件は聞いている。
そしてそれは、紛れもない彼らの実力だ」
怒られているわけではない。が、どうしても責められている気がしてならなかった。
私には彼の言葉を、逃げずに頭から浴びる事しか出来ない。
「貴女は…自分が教導するアイドルを、信じていないのか?」
『……返す言葉が、ありません』
「おい。そこまで言う必要ねぇだろ」
『大和、いい。私が悪い事をした』
彼の言葉がキツくなるのも当然だ。
オーディションに関して、コネクションなど全く働いていなかったというのに。私が勝手に、仄暗い力が加わったと勘違いしてしまったのだ。
彼からすれば、真っ白で綺麗なカンバスに美しい絵を描こうとした矢先。そこへ真っ黒なペンキをぶち撒けられた気分だろう。
『裏でコネが働いているなどという、不躾な発言をお許し下さい』
「頭を上げなさい。僕は怒っている訳じゃない。
ただ、これからは…仲間を信じてやりなさい。彼らの努力を、1番近くで見ている貴女なら分かるはずだろう。彼らには、コネクションなど不要だということが」