第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
「しかし、TRIGGERのプロデューサーは男だと聞き及んでいるが」
『!!』
「一際 優秀な人間がいると耳にしていた。担当が代わられたという事かな」
『〜〜っ、えっ、と!あの』
ファンでもあり、業界の重鎮でもある彼が、私を認知してくれていた。その事実が嬉し過ぎて、私は声にならない声を上げながら隣の大和を見る。
「はいはい良かったねー。って言いたいとこだけど、あんたのそんな嬉しそうな顔見たの初めてなんだけど。親父のたった一言で、あんたそんななっちゃうの?複雑なんですけど」
首を傾げる千葉氏に、一通り説明をする。普段は別の名前で、男としてプロデューサーをしていること。その事実を知る人は、それなりに少ないということ。
彼は腕を組み目を瞑って、唸るように言った。
「広い括りでは同じ芸能界でも、アイドル業界は僕にとって畑違いだからな。こちらの理解が及ばない事情があって当然だ。貴女も、TRIGGERの為に様々な努力をなさっているのだろう」
『はっ…ははー、もったいないお言葉で…!』
「あんた、この人の事 殿様か何かと勘違いしてねぇ?」ははーって…
「それで…
このタイミングで、ここを訪れたという事は…」
やはり彼も、容易に想像が付いたのだろう。この時期に、TRIGGERのプロデューサーを名乗る人間が 自分を訪れてくる理由は1つしかないと。
『はい。本日は、三日月狼のリメイク “ クレセントウルフ ” の主要キャストに、弊社のTRIGGERメンバーを選んでいただいた御礼を、申し伝えたくお邪魔した次第です』
再び深々と頭を下げる。
そんな私を、大和はつまらなさそう顔で見ていた。千葉は、衝撃の事実を淡々と告げる。
「そんなふうに、貴女が頭を下げる必要はない。
僕は引退した身だ。あれのキャストについて、口を出すことは一切してないんだから」
『………へ』