第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
いやいや。そんな事をぼんやり考えている場合ではないのだ。
重なった誤解を、早く解かなければ。肝心の大和は、ただ でれでれと笑っているばかり。全くあてに出来そうにない。
『あの、ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。
私は、八乙女プロダクション所属の中崎エリと申します。現在は、弊社のアイドルグループTRIGGERのプロデューサーを務めております』
テーブルから半歩ほど距離を取り、三つ指をついて頭を下げる。
「八乙女さんのところの…」
どうやら分かってくれたらしい。私は、ほっとして顔を上げる。
「大和…TRIGGERのプロデューサーと結婚するのか」
「まぁ、成り行きで」
『や ま と さん…?いい加減、誤解を解こうと努力してる姿勢くらいは見せて欲しいかなぁ…っ』
「誤解?」
『あ、はい。私と彼は、取り立てて言うほど特別な関係ではありません。
ただ、同業者というだけでして』
「「同業者……」」
『う…』
親子2人は、そろって悲しげな瞳を向けてくる。まるで私が、悪い事をしたみたいではないか。
私はただ、事実を言っただけなのに!
いや…それは違う。事実を言うとしたら、こうだ。
私は、息子さんのセフレですー。
だがまさか、父親に対し言えるはずもない。告げた場面を想像するだけで頭が割れる。
『い、今のところは…!同業者、です。
でもほら、人生は、何が起こるか分かりませんから。私と大和さんがそうなる確率は、0じゃないと申しますか』
私はもう、自分で何を言っているのか分からなくてなってきた。
しかし目の前のそっくり親子が、これまたそっくりな笑顔を見せてくれたので。とりあえず、これで良かったのだと思おう。