第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
「…なんだよ。自分ち帰って来んのに、いちいち連絡が必要なわけ?」
「………」
『……』
(そんなに冷たい言い方しなくてもいいのに。千葉さんもショック受けてるんじゃ…。ほら、目を見開いて固まっちゃっ)
「っ、母さん!大和が……大和が!いま、この家を “ 自分ち ” と言ってくれた…っ」
「今いねぇんだろ!?っつーか大きな声で報告すんなよ!恥ずかしいな!」
パパは大いに喜んでいるようだ…。
やがて私の存在を思い出したように、はっと我に返った千葉氏。取り乱したシーンを見られたのが恥ずかしかったのか、こほんと咳をしてから仕切り直す。
「し、失礼。
大和。そろそろ、こちらの女性を紹介してくれないか」
「あー…まぁ、そうだよな。
なんていうか この人は…俺の、大切な人だよ」
『え、いやちょ、その言い方は何かまた誤解を』
「〜〜っ、母さん!大和が…大和が!この家に、大切な人を連れて…!結婚の挨拶に来てくれたぞ!」
『あぁ…ほらぁ…』
「はは。まぁいいか」
『よくないでしょ!』
感極まったのか、再び留守をしてる人間に報告をする千葉。
表情にこそ表れていないが もしかすると、大和が帰って来てかなり舞い上がっているのではないだろうか。
だとしたら、意外と可愛い人なのだなと思う。
それに…彼は、大和の母親を “ 母さん ” と。そう呼んだ。
私は、彼と 本妻である朝宮巴の仲を知らない。世間で言われるようなおしどり夫婦なのか。それとも…
それを知り得る方法はないし、べつに知りたいとも思わない。
が。きっと、千葉が “ 母さん ” とそう呼ぶのは、大和の母である女性ただ1人ではないだろうか。
と、そんな事をぼんやりと考えた。