第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
幼い頃から、幾度となくテレビで見たその顔が、いま目の前にある。そしてそんな彼の視線は、面白いほど分かりやすい動きをする。
まず私と大和の、握り合った手をじぃっと見つめてから…その後ゆっくりと私の顔へと移動した。
にこにこと微笑み合い、手を取り合う男女。この情景を見た相手に、どんな印象を与えるか。想像に容易い。
目が言っている。息子と仲睦まじく、手を繋ぐこの女は誰だ?と。
それに気付いた私は、ばっ!っと大和から手を引っ込める。
この気不味い空気を解消すべく、私は大和に助け舟を求めた。しかし彼は、ふい と視線を斜め上45度に逃がすだけだった。
「とりあえず2人とも…上がっていきなさい」
「……どうも」
気不味い空気を解消すべく、口を開いてくれたのは千葉だった。肝心の大和は、たった一言そう呟いただけ。さっきまでの饒舌っぷりはどこにいった。
どうも。じゃないだろう…
私は隣の頼りない男を見上げ、そして千葉家の門をくぐる事となった。
もしかすると、大和の母親が出迎えてくれるのではないか…と、ドキドキした。しかしちょうど今は留守をしているらしい。
思い描いてた通りの和室に通された私達は、千葉の前に並んで座った。
お手伝いさんと思しき女性が、お茶をテーブルの上に置いてくれる。そして部屋を出る際、私と大和の顔を交互に見つめた。
久々に顔を見せた家の住人が、急に連れて来た異性が気になるのだろう。
あぁもう…
色んな人に色んな誤解をされているのは必至だった。