第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
「あはははっ、駄目だ、腹が痛い!
破壊力ありすぎ!たしかにその言葉に逆らえる男はいねぇよ」
どうやら、見事 一撃で大和の機嫌は持ち直したらしい。腹を抱え、目には涙を溜めている。
眼鏡を外し、目元をこする。そして、レンズをハンカチで拭いてから元の位置にそれを戻した。
「はー、笑った…
それにしても、そんな最強呪文をあんたに授けたのはどこの誰なんだよ。グッジョブ過ぎるわ」
『ダンスの師匠』
「あんな台詞を教えるような人のダンス?どのくらい如何わしい踊りなのかねぇ」
『普通だから!大和、変な想像したでしょ。やらしいんだー』
「男はみーんなやらしいの!」
にまにまとした、ねちこい笑顔を浮かべる大和。そして両手をわきわきさせて、こちらへ距離を詰めてくる。
「んじゃまぁ、いただくとしましょうか?」
『え!?まさかの外で!?いや、ないない。それはないよ…』
「なんだよ。公約違反だぞ」
『公約って、そんな大袈裟な。
っていうかね…冷え切った手で胸触られたら、心臓発作起きちゃうでしょ!
ほら、こんなに冷たい』
私は、大和の手を両手でそっと包み込んだ。やっぱり思った通り、すっかり冷え切っている。そんな指先に、温かな息を吹きかけた。
『やっぱり、私より冷たい。でも大丈夫だよ、私の手は温かいから。なにせ心が冷たいからね!』
「…真似、すんなよ」
されるがままの大和は、ふいと視線を外して呟いた。そして、続ける。
「あんたは、冷たくなんかないだろ。手も、心も」
私達は手を取り合って、互いの顔を見つめ微笑んだ。
もう、千葉家はすぐそこだ。さきほどから、莫大な敷地を囲う垣根に沿って歩いている。きっと正面入り口まで、あと少し。
再び歩き出そうとした私達に、声が掛けられた。それは、驚くくらい聞き覚えのある声で…
「大和…?」
「!!
お、親父…」
……オーマイゴット。
いや、違うな。ここは、オーマイファーザー。
だろう。