第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん

『大和…、ごめん』

「何が」

『その、怒っちゃったよね。ごめんね』

「あんたが謝る必要ないだろ」

『いや…言い方とか、良くなかったし』

「そうか？」

『ほら、その感じ…やっぱり怒って』

「あぁもう、うっせぇな」


いつもよりも、乱暴な口調。どこの誰が聞いても、彼が怒っていると分かるだろう。

私は、何をやっているのか…
これから赴く家の、息子様を怒らせてしまうなんて。


『私だって、今日が楽しみだったよ？』

「はは。だろうな。念願の大御所に会えるんだから」

『いや、そうじゃなくて…
あぁもう！本当にごめんて！』

「だから怒ってないって言ってるでしょうが」

『嘘だ』

「嘘じゃねぇって。ちょっとイライラして、むくれて、拗ねてるだけだ」

『人はそれを怒っていると言う』


大和は、眼鏡の奥の瞳をピクリとさせて、私を見下げた。しかしすぐにまた歩き出す。

いけない。完全にご機嫌斜めだ。どうにかして、彼の怒りを鎮めなければ。
が、私にはこういう時に使えるとっておきの秘策がある。


『……大和、知ってる？』

「なにを」

『どんなに怒ってる男の子でも、一発でご機嫌にしてしまう魔法の言葉があるの』

「男の子って言うなよ。それに怒ってもねぇし。
ま、でも。その魔法の言葉にはちょっと興味あるな」

『でしょ？その言葉はね、女にしか使えないの』

「へぇ。じゃあその魔法の言葉とやらで、俺のご機嫌取ってみてくれよ」


なんとも不敵な顔で笑う大和。どう見てもアイドルの笑顔には見えない。
まぁそんな事、今はどうでもいい。

私は大和の正面に立ち、口を開く。


『ごめーんね？おっぱい触らせてあげるから、許して欲しいにゃんっ』

「最強呪文！！」