第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
「あんた気づいてるか?
すれ違う人皆んな、あんたをもう一目見たくて振り返ってるだろ」
『??
話の変え方強引じゃない?』
「変えるつもりないから、まあ聞けって。
そんな、誰も彼もが振り返っちゃうくらい綺麗なエリちゃん」
『ふざけてるよね』
「ふざけてないっての。
だから、その…自慢したくもなるだろ。周りの奴らにも、あいつらにも。
こんな可愛いあんたの隣に立ってるのは、俺なんだぜって」
唇を尖らせてそう言った大和は、やっぱりちょっとだけ、いつもよりも子供っぽくて。可愛らしくもあった。
『…ふふ。自慢、ね。それで天と龍の前でも、あんな言動しちゃったわけだ。
なんだか、あれだね。新しく買ってもらったピカピカの玩具を、友達に見せびらかせたくなる子供みたい』
「………ま、そうかもな。
悪かったよ。でもよく分かった。今日を楽しみにしてたのって俺だけだったんだな。
よく考えりゃ当たり前か。あんたは、俺じゃなくて親父に会いたくて来たんだもんな」
あ、まずい。と思った時には、もう大和は私の前を歩いていた。
怒られせるつもりはなかったのに、ついつい喋り過ぎてしまった。私は咄嗟に彼の手を掴む。
『大和、待っ』
「残念ながら、もう両手共空きはなくなりました」
すぐに、振り払われてしまった。
ほんの一瞬だけ触れた手は、私より冷たかった。
はっとして、隣に駆けて大和を見上げる。すると、鼻が少し赤い事に気が付いた。
もしかすると彼は…この寒空の中 長い間、外で私を待ってくれていたのではないだろうか。
長時間待ってしまうほど、今日を楽しみに。私に会う事を楽しみにしてくれていたのではないだろうか。
その考えに思い至ったのと同時に、後悔を覚えた。自分が発した言葉の数々を、無かった事にしたくなった。