第70章 自分の気持ちを言葉にするの苦手なんだもん
隣を歩く大和は、るんるんと機嫌が良さそうだった。が、私は対照的に若干の苛立ちを腹に抱えていた。理由としては、2つほど挙げられる。
まず、大和が普通に洋装姿だったこと。彼の姿を見た瞬間に気が付いた。大和が昨夜語った、千葉家のルールとやらはデタラメだったのだと。
まぁ…それはいい。気付かなかった私も馬鹿だった。
問題は、もう1つの方。それは、彼が 天と龍之介の反応を見て楽しんでいた事である。
本来ならTRIGGERと仕事をしている私を、2人から取り上げて。一体、大和に何の得があるのか。何が楽しいのだろうか。
「着物じゃ手袋出来ないから、手冷たいだろ。俺の手はあったかいんだよなぁ。なにせ心が冷たいから」
『……はは。で?』
「今ならなんと、両手共に空いてるんだけど?って話。カイロ代わりにいかがでしょーか」
『え、ほんと?やったー貸して貸して、って。なる訳ないでしょ』
大和は差し出した手を、つまらなさそうに引っ込めた。私は立ち止まった彼を置き去りに、先を急ぐ。
「えーと…お姉さん、何か怒ってます?」
『べつに、怒ってはないけど。
ただ、大和って意外と子供っぽいところがあるなぁと思って』
「ん?…それって何の話?」
『さっき。天と龍を揶揄ってたでしょ』
再び隣に並んだ大和。私は彼の顔を見ず、足元に視線をやって言葉を続ける。
怒るつもりはなかったのだが、棘のある言葉を選んでしまっていた。
「揶揄った…ってのは、ちょっと違うかもな」