第9章 抱いて差し上げましょうか?
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翌日。私は、某出版社に来ていた。
今の格好は、いつものスーツではない。膝小僧が丸出しのダメージジーンズ。ダボダボで無地の白T。無駄にレンズの大きなサングラス。
ウィッグはいつも通りの物。さらしも巻いて 男装スタイルは変わらない。ただ、なるべく IQの低そうなヤンキー感を出していく。こいつなら上手くカモれそうだ と、相手に思ってもらえるように。
私はガムを口の中に放り込んで、受付へと向かう。
『すんませーーん、俺、この人に会いたいんですけどー』
私は受付嬢に、MONDAYを開いて見せる。勿論 龍之介が載っているページ。そして、この記事を書いた男の名前を指差した。
「あ、…申し訳ございません。お約束はされていますか?」
『約束は、してないなー。でも、どーしてもこの人に話したい事があんだよね』
「誠に心苦しいのですが…。お約束の無い方をお取り次ぎする事は、出来ない決まりになっておりまして」
申し訳なさそうに、頭を下げる受付嬢。
私は、ここぞとばかりに用意して来た物を準備する。それこそ、昨日用意した写真だ。カウンターの上にそれが入った茶封筒を置いた。
そして、受付嬢にこそっと耳打ちをするように近付く。
『ここだけの話…俺、すっげースクープ持って来てんのね。君達もさ、知ってるでしょ?TRIGGERの八乙女楽…』
ここで、チラっと例の写真を彼女達にチラ見せする。
受付嬢達は、完全にあの偽物の写真を 本物の楽だと思い込んだ様子だ。
よし。もう一押しだ。
『ダメ元でも良いからさー…ちょこっと時間貰えないか、電話で聞いてみてよ』
私はサングラスを少しだけ浮かして、彼女にウィンクをする。
『ね?お願い…☆』
「わ、…分かりました、少々、お待ち下さいっ」
…男装も、意外と便利なものだ。男に色目を使えない分、逆に女性には効果覿面である。