第9章 抱いて差し上げましょうか?
『とにかく、これは明日の為に必要な事なんです。言いましたよね?協力する、と』
私が脅すように言うと、2人は嫌々ながらも協力を始めた。
『姉鷺さんは、ただ私の背中に手を回してじっとしてて下さい。
社長は、私達の事を写真に収めて下さい』
気を取り直して、私は姉鷺の腰に手を回し。空いている方の手で顎先に軽く触れる。
「ひいぃっ」
『少しはまともな顔をして下さい。いくら後で多少加工するにしても、限度があります』
体を密着させる私達を、色んな角度から社長がカメラに収める。
「っく…、自分の息子が、姉鷺に迫っているみたいで、気味が悪い…」
ぐったりしてしまった2人を置いて、私は意気揚々と社長室を後にした。そして仕事部屋のパソコンに向かうのだった。
たった今 手に入れた写真を加工する為だ。
『………』
データをカメラからパソコンに移し、さきほどの写真を加工していく。
私の顔をより楽に近付けて…。姉鷺をより女性的な見た目に。
これで、どこからどうみても楽が女性に迫っている写真の完成だ。
別に、社長にあえてカメラマンをさせなくても良かったのだが…。あれは密かな仕返しだ。私に雑誌を投げつけてくれた 礼。あの男からすれば、自分の息子が男に迫っている場面を見せ付けられて 不愉快きわまりなかったはずである。
私は心の中でほくそ笑みながら、出来上がったばかりの写真を印刷して、茶封筒の中にしまった。
「………」
(凄いものを見てしまった…。社長に用事があって、社長室に行った時に…)
「龍?どうしたの?顔色が悪いよ」
「まだ引きずってんのか?あんまり思い詰めるなよ。あの件は、春人がなんとかするって言ってんだから」
「…うん。俺、ちょっと疲れてるのかも…。さっき社長室で、ありえない物見ちゃって」
「「何を」」
「春人くんが、楽のコスプレして姉鷺さんに迫ってて、それを社長が写真に撮ってた」
「はい?」
「龍。今すぐ寝ろ。疲れ過ぎだ」