第69章 お前さんのデート相手はここで待ってますよー
私の前には麦焼酎のお湯割り。大和の前にビール。
当たり前だが、この季節でもビールはキンキンに冷えている。何故なら極限にまで冷えている事こそが、ビールのアイデンティティだからだ。
私は、寒そう。という言葉を飲み込んで湯呑みを軽く上げた。
「じゃぁまぁ…あけましておめでとうございます」
『あ、おめでとうございます』
軽くグラスを合わせる。
大和のその乾杯の音頭で、私達が今年初めて顔を合わせているのだと気が付いた。
「………っ、は! 美っ味ぁ…!」
『寒そう』
「寒くても飲むの」
『一杯目はビールって、頑なに譲らない人っていますよね』
私は、大根と厚揚げの煮物をチビっと箸で切って口へ入れた。
1人で飲む時、楽や龍之介と飲む時は、バーへ出向く事が多い。こういう煌々とした明かりの下、ガヤガヤとした喧騒の中で飲むのは久しかった。
でも、全然嫌ではない。
「TRIGGER、主演枠独占だって?流石だよなぁ。おめでとさん」
『!!』
大和は、まだほのかに温かいおしぼりを握って言った。
そうだ。私は、その話をしに来たのだ。しかし、大和の方から切り出されるとは思っていなかったので面食らってしまった。しかも、こんな唐突に。
それよりも、オーディションの結果はまだ公には発表されていない。その情報を大和が知り得ているということは…
私が予想した通り、今回の件…大和が動いてくれていたのだろう。
それなのに わざわざ、流石だ、おめでとう。という類の言葉を添えるとは…なんとも彼らしいではないか。