第69章 お前さんのデート相手はここで待ってますよー
「っていうか、いい加減にさみーわ。とっとと移動しようぜ」
『移動って、どこへ』
「決まってんだろ」
にっと笑った大和に連れて来られたのは、大衆居酒屋だった。私は店の前に吊るされた赤提灯を見つめる。
大和の事だから、酒が置いてある店に向かうだろうと予測はしていたのだが…
『今や人気アイドルの貴方が、個室の無い居酒屋って。大丈夫なんですか?顔さしません?騒ぎになりません?』
「ささないし、ならないから平気だって。ほら、寒いから早く入って」
『ちょ、押さないで下さい!』
大和に背中をぐいぐいと押され、強制的に暖簾を潜る。すぐに威勢の良い声が飛んで来た。
何名様ですか!?という問いに私が答えようとしたところで、店員が大和の存在に気付く。
「お、なんだ〜 大和さんか!らっしゃい」
「なんだはないだろー。2人ね」
「はいよ。今日はえらいべっぴん兄さん連れてるね。いつも一緒の、元気で可愛い子はどうしたの〜?」にやにや
「はは。今日あいつは家でお留守番」
店主と思しき男と大和の会話から、かなりの頻度でこの店を利用しているのだと伺えた。
そんな事よりも、今は他の事が気になる。
『へぇ。元気で可愛い子、そういう女性が好みなんですか?』
「ばーか。からかわれたんだよ。店長がさっき言ってたのは、ミツのこと」
『……あぁ!なるほど』
脳内で、三月ボイスが再生される。
“ だーれが元気で可愛い子だ!女の子みたく言うんじゃねぇよ! ”
「なに。もしかして妬いちゃったりした?」
『なにを馬鹿な…』
「大丈夫。だって俺、元気で可愛い女の子より、べっぴんさんの方が好みだから」
『……っ、だから、妬いてなっ』
ぐっと強い目力で覗き込まれると、何故だか恥ずかしい気持ちが湧いてきた。
必死に否定しようとしたところ、店員がお通しを持ってやって来たので、私は仕方なく口を噤んだ。