第69章 お前さんのデート相手はここで待ってますよー
「あんた、嬉しくないのか」
『え?』
「ボクらが最終選考に残ったのが、嬉しくないの?」
「春人くん、もしかして何か 不安があるとか…」
ぱっと顔を上げれば、3人は怪訝な表情を向けていた。私はすぐに笑顔をたたえ、首を横に振る。
『何を言ってるんですか。そんな訳がないでしょう。
おめでとうございます。この調子で、最終選考も突破して下さいね!』
「…なんか胡散臭いんだよな。その取ってつけたような笑顔とか」
楽の言葉に、2人も頷いた。私は、むすっとした表情を隠さずに告げる。
『では、今すぐ裸になって逆立ちで社内を練り歩きましょうか。それくらい浮かれ散らかしたら、喜んでるって信じてもらえます?』
「はは!それいいな。春人ファンのスタッフ達が喜ぶぜ」
「よ、喜ぶかなぁ」
「単純にファンが減るでしょ」
話の流れが他へ逸れたのを受けて、密かに息を吐いた。
最近。私の表情や言動の機微を、彼らは的確に読み取ってくる。
よく言えば、互いの事を理解出来ている。
悪く言えば、嘘が通用しなくなった。
私は、自分の頬をそっと撫でた。
「よし。じゃあ最終選考までに、もっと稽古だな」
「うん!皆んなで頑張ろうね!」
「出せる力 全部出し切って、絶対に3人で合格しよう」
『私も、全力でサポートします。
しかし…通常はこの時期、タレントはようやく少し休みが取れるタイミングだというのに。稽古で忙しくさせて申し訳ありませんね』
芸能人の正月休みは、一般人と違って遅れてやって来る。生放送番組は当然あるものの、年末年始に撮り溜めた特番がある分、少し時間が空くのだ。その間に、まとまった休みを確保するのが一般的。
しかし、いまのこの状況ではそれも難しい。
「気にしないで。ボク達は、本気でこの仕事を勝ち取りたい。その為の必要な努力はしておきたいからね」
「天の言う通り。それに、こんなふうに稽古に集中出来るのって滅多にないし、俺は楽しいよ!」
「待ってろよ春人。絶対に俺達、3人揃って主演枠獲ってくる」
私はもう一度 頬を撫でてから、出来る限りの笑顔を返した。