第68章 あなた…意外と馬鹿なんですね
そんな中、審判が涙をボロボロ零しながら叫ぶ。
「かっ、感動した!感動したぞー!もうこれは…
皆んなで、夕陽に向かって走るしかないなっ☆」
何故だ。
「おっ、審判さん!分かってる〜!モモちゃんも全力疾走しちゃいますぞ!」
「へへっ、オレも走るぜ!」
「俺も走るよ!」
何故だ!!
「僕達も一緒に走る〜!」
いやいや。少年達は頼むからフットサルをしてくれ。せっかく勝ち取ったピッチを無駄にしないでくれ。
「あの…俺達もお伴していいですか?」
「当たり前じゃんか!全力を出してぶつかり合ったオレ達はもう…トモダチでしょっ!?」
「も、百さんっ!」
もう、勝手にしてくれ。
「ほらほら!春人ちゃんも早く!オレ達と一緒に青春しよう!」
『いや、私は遠慮します。打ち上げの焼肉まで、大人しく休んでいますよ』
「にゃはは!打ち上げ会場のリクエスト承りました〜!いつもの店、予約しとくね」
「皆んな!準備はいいかなぁ!?
あの夕陽に向かって…さぁ!行こう!!」
腰に手を当て、体育館の扉を指差した審判の男。
百も三月も龍之介も、少年達に不良の輩も。全員が、走り出した審判の背中に付いて行ってしまった。
きっと、沈みゆく夕陽に向かって河川敷でも走るのだろう…
昨日の敵は、今日の友。まさかそんな事が、本当に起こり得るのか。ただの都市伝説だと思っていた。
「あいつら…完全に雰囲気に飲まれてたな」
『カトちゃん。貴方は走らないんですか?』
「走るわけねぇだろ。馬鹿くせぇ」
ニヤリと笑った加藤は、私の額をツンと突いた。ガーゼの上からだとしても、激痛が走った。
私と加藤が並んで、一織の待つベンチへと戻る。すると、どうだろう。
監督こと一織が、運動部のメンバー達に取り囲まれていた。
「いえ…私はそこまで大層な事はしていませんよ。試合に出てくれた皆さんが、頑張ってくれたおかげです」
「それも勿論だが、君の的確な指示や分析力は大したものだ。まだ若いのに素晴らしい才覚だね…」
「確か あなた、IDOLiSH7のメンバーでいらっしゃるわよね?」
「えぇ、はじめまして。和泉一織と申します」
「そうだそうだ!どこかで顔を見たと思っていたんだよ。これを機に、しっかりと覚えておくとしよう」
「恐れ入ります」