第68章 あなた…意外と馬鹿なんですね
ボールなどそっちのけで、脱兎の如く駆け出す男達。当然、私はその背中を追い掛ける。逃すものか。逃すものか。
『はははっ!どこに行くんですか!!もっと!もっと私とフットサルを楽しみましょうよ!』
「ひ、ひぃぃっ!助けてー!」
「ばっ、馬鹿じゃねぇのか!?こんなのフットサルじゃねぇよー!」
ピッチを駆け回る私達に、審判は大混乱だ。何が起こっているのか、どう対処したら良いのか分からない様子。きっと、こんな試合は彼も初めて見たのだろう。
百も三月も、頭を抱えて叫ぶ。
「お、落ち着け!おい春人!!」
「だ、駄目だ!怒りで我を忘れてるんだわ!」
「百さん!先週の金曜ロードショーがナウ●カだったからって、名台詞のぶっ込みやめて下さいって!」
「だって録画するの忘れちゃったんだもん!」
「知らねぇよお!!」
オウ●の如く、怒りで我を忘れている私は、相変わらず憎い対象を追い回している。報復だ。報復だ。頭の中は、ただそれだけだった。
そして…ついにその指先が、男の服を掠めた。
しかしその時。ぼすっと、私の体を大きくて温かなものが包み込んだ。
「ほら、怖くない。怖くない」
怒りに狂った私を、包み込んだのは龍之介だった。怒りで真っ赤になった頭と心に、彼の優しさが流れ込んでくる。
ぎゅうっと抱き包められ、背中をさすられる…
「ほらね、怖くない。ね。
怯えていただけなんだよね」
『………』
「オ●ムの攻撃色が消えていく。ピッチから怒りが消えた。
止まった。オウ●が止まったぞ」
「いやいや!どんなけナ●シカネタ引っ張るんですか!!
十さんに至っては、狙ってやってんのか天然なのか分かんねぇよ!!」