第68章 あなた…意外と馬鹿なんですね
審判の声掛けに気付くのが遅れたせいで、復帰が危うくなるところであった。
何度も、大丈夫か?大丈夫か?と訊いてくる審判に、ただひたすら大丈夫だと答えた。
試合が再開されると 私は自ら例の男の所に出向く。心配そうに見つめる百達の視線が集まる中、男は私に囁いた。
「……あんな目に合わされたってのに…なんでまた出てくんだよ!」
『なんでって…。
貴方にも、同じ目に合ってもらう為に決まっているでしょう』
「!!」
私は、にちゃっと笑うと同時に、男に足払いを仕掛ける。
走っていた最中に転んだ男は、見事に顔面スライディングを決めた。
勿論、審判やその他大勢がこちらを見ていないタイミングを狙ったのは言うまでもない。
「っ!? いっ」
『痛いでしょう?
ふふ、私だけ額の皮を失ったのでは…不公平ですからねぇ』
「ひ、ひぃっ」
男が床に頭を叩きつけた、ドゴォッ!という音を聞きつけ、皆が駆け付ける。
それを視界の端に入れた私は、大袈裟な声を上げる。
『大丈夫ですか!?どうぞ、私の肩に掴まって下さい!』
「なっ、なんっ」
駆け付けた審判へ、聞かれてもいない内に報告をする。
『彼が突然転んでしまって!』
「何言ってんだ!違う!こいつが」
『ガタガタうっせぇなぁ…私は、あんたがしてきた事と同じ事をしただけでしょ』
血が噴き出す鼻っ面を押さえる男に、低く囁く。
『言っとくけど、先に仕掛けたのはそっちですからね』
「君、大丈夫か!?」
「……っ、……ぁ」
『大変ですね。あぁ、こんなに震えて可哀想に…まともに喋れないくらいショックを受けているようです!私がこのまま、彼をベンチまで連れて行きますよ!』
唇をガチガチ鳴らす男を、私は担ぎ上げる。そして、彼を引きずるようにして歩みを進める。
『ふふ、今さら後悔しても遅いから。私をこの土俵に引っ張りあげたのは貴方達だ。
ピッチからそっちのチーム全員が消えるまで…もう、私は止まらない』