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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第68章 あなた…意外と馬鹿なんですね




『…ふふ。まるで、うちの八乙女楽みたいな事を言うんですね。一織さんは』

「どういう意味ですか」

『恥ずかしい事を真顔で言う』

「な…っ!せっかく人が気を使って優しい言葉をかけているというのに!あなたと言う人は」

『でも、放たれる言葉はいつだって真っ直ぐで。私に勇気をくれるんです。

だから、ありがとう』


にっこりと微笑むと、あからさまに目を逸らされてしまった。横を向いた顔の横に付いた耳は、若干赤い。
ありがとうと正面から礼を言われて 照れてしまう辺りが、やっぱりまだまだ幼くて可愛らしいなと思う。


「ほ、ほら!そろそろ血も止まったんじゃないですか!?」

『ん…、あぁ。本当ですね。ありがとうございます。額の傷も、痛みが少し引いた気がします』


一織に促され、圧迫していた指をそっと離してみる。もう、鼻の奥から温かい物が流れてくる感触はなかった。

額にそっと手をやると、大きなガーゼが不織布テープで固定されている。
もうどこからも血が出ていないので、これで問題なく試合に復帰出来るだろう。


「本当にもう大丈夫ですか?頭を強く打っているんです。一応確認ですが、脳震とうなどは起こっていないんですよね」

『大丈夫。鼻血が出たのと、額の皮がどっか行っただけです』

「いや言い方…」


私が手を上げてピッチに近付くと、審判が駆け寄ってくる。彼に鼻血が止まった事を確認してもらえれば、私は試合に戻れるはずだ。


『私がこんな軽傷で済んだのは、龍のおかげですね。たまたま近くにいてくれて良かった』


後で御礼を言わなければ、と思いそう言ったのだが。一織は驚きの混じった苦笑を浮かべて こう返した。


「たまたま近くにって…
あなた、気付いてなかったんですか?

十さんは、この試合が始まってからずっと中崎さんの事を見ていますよ。
あなたに いつどんな危険が及んでも、助けてみせるつもりなんじゃないですか」

『……』


一織の言葉を受け、私はピッチで駆ける龍之介を目で追い掛けた。
審判の声掛けにも気付けないほど、それはそれは真剣に。ただ彼を見つめた。

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