第9章 抱いて差し上げましょうか?
『いま考え得る最善は…。出版社に掛け合い、来週発売のMONDAYに 今回の記事が捏造であったと謝罪文を挙げさせる事です』
「…難題だな」
楽の呟きは、絶望の色を孕んでいた。
「その記事の担当者にアポは取ったの?」
『それが、びっくりするぐらい取り次いでもらえません』
テーブルに肘をついて、私の方へ向いた天。私はすぐに答えを返す。
今日もう既に、数え切れないくらい出版社へ電話をかけている。
しかしその記事を書いた記者は、信じられないくらいの多忙を極めているらしく。まとまった時間を取れる見込みが全く無いらしい。
…まぁ、平たく言えば 八乙女事務所の人間と会いたくないが為の大嘘をついてやがるのだ。
「まぁ…普通にいけば、そうだろうね。簡単には会えない」
『…えぇ。普通にいけば…ですよ』
私はにやりと口角を歪める。
「…普通にいく気が、全く無い笑顔だな おい」
当たり前だ。アポが取れないからと このまま黙って引き下がる気など毛頭無い。
『十さん』
名前を呼ぶと、龍之介は 立ち上がった私の顔を見上げる。
『私が、必ずなんとかしてみせますから。安心して仕事に集中して下さい』
「え…なんとかって、春人くん どうするつもり?」
『…なんとかは、なんとかです。
私は明日、出版社に出向きますので TRIGGERの同行は姉鷺さんにお願いしておきます』
これを言っておかないと、また楽が ホウレンソウがどうとか騒ぎ出すので。私はきちんと彼の目を見て報告した。
「…春人くん、俺のせいで…迷惑かけて本当にごめん」
『いいんですよ』
私は、彼の不安を取り除きたくて 珍しく笑ってみせる。
「いくらムカついても殺すなよ?」
「《TRIGGERのプロデューサー。大手出版社で乱闘事件》なんて見出しは、勘弁してよね」
『………』
楽と天は、私の事をなんだと思っているのだろうか。