第68章 あなた…意外と馬鹿なんですね
そして、相手の目線。体の機微。しっかり観察して、小さな違和感を見つけ出せ。
男の視線が、左に行き、そして右に行く。そして体を右に軽く揺すって…次の瞬間、左に大きく傾く!
ここだ!!
私は、ボール目掛けて脚を振り抜いた。
「なっ!?」
それは、男の足から離れて遠くへ飛んでいく。飛ばす方向、飛ばす相手など狙う技術はない。
私に出来るのは、ただボールを奪って遠くへ飛ばすことだけ。後は、味方がそれを取ってくれるよう信じるだけ。
「春人くんがボールを蹴った!」
「春人ちゃん凄い!ナイスカット!!」
「ははっ、やるじゃねぇか!あんたのその頑張りは、絶対に無駄にしないからな!」
三月は俊敏な動きでマークを翻弄し、あっという間にフリーになった。そして、高くジャンプしてボールを受け取った!
流れるように足元にボールを落とすと、そのままドリブル。ぐんぐんと、信じられない速度でゴールへの距離を詰める。
三月を止めようと、なんと2人がマークに付いた!パスを出す相手を探す為、視線がチラっと辺りに向けられる。マークがパスを警戒したのも束の間、三月はなんと再びドリブルを始めた。ボールを持ちながら、2人を相手に競り勝ったのだ。
まるで足にボールが吸い付いているのではないかと思うような華麗なドリブルで、すぐゴールへと辿り着く。
そしてそのまま…
「おっしゃぁあ!!いっけぇええ!」
気合いの入った雄叫びを上げ、渾身のシュートを放つ。
凄まじいスピードで、ボールはゴールへと吸い込まれた。
『ナイスです!』
「やったぜ春人ー!」
駆け寄った私の肩をガッと組んで、三月は全身で喜びを表現した。そんな彼を、遠くから一織が、じぃ…っと見つめていた。
「…そ、そう言えばオレ…一織に、突っ込み過ぎるなって言われてたんだった。やべ」