第67章 左手は添えるだけ
私達は、赤チームとなった。
龍之介は、早速 私の腕に赤チームの証である、赤い腕章を付けてくれる。
「春人くん、あんなふうに相手を挑発したら危ないだろう?」
『え?これから戦う相手を激昂させて精神を掻き乱すのは、勝つ為の常套手段なのに?』
「君はスポーツでもブレないなぁ…」
『でも、嬉しかったですよ。私の事、大切な人だって言ってくれて。
助けてくれて、ありがとうございます』
「……いいよ。たとえ、どんな悪い人が敵になっても、大丈夫。
俺が絶対に、君を守るから」
『!!
その台詞は…』
数日前に、私が彼に言った台詞だ。龍之介は、その台詞をそっくりそのまま返して来た。
まだそう遠くない記憶なので、簡単に蘇る。
私が彼に、守ると告げた時。彼は確か、なんとも言えない顔で笑ったのだ。嬉しそうに。でも、悲しそうに。
私は、そんな彼にどんな言葉をかければ良いのか迷った。なぜなら、龍之介がどうしてそんな表情をするのか分からなかったから。彼の気持ちが、分からなかったから。
でも。いま実際に、自分が守ると言われて唐突に理解出来た。あの時、どうして彼があんな微妙な顔をしたのか。
『龍…。
悪い奴は、一緒に倒しましょう。皆んなで、力を合わせて。
私は…貴方に守られるだけの弱い存在じゃないし、お荷物にもなりたくないです。
だから、一緒に戦って下さい』
「……春人くん」
『この前、貴方は私に こう言って欲しかったのですね。ただ、守ってあげると言われるのではなく。
気付いてあげられなくて、すみませんでした』
龍之介は、否定も肯定もしない。でもその代わりに、満面の笑顔を見せた。
その笑顔には、複雑さも、悲しさだって、少しも含まれていなかった。