第67章 左手は添えるだけ
そんな会話の最中。突如として、ずしり と頭部に重みを感じた。何かが私の頭に乗っかったらしい。
「よぉ。お前はこんな場所でも相変わらず、堅苦しい格好してんな」
『重い。どけて下さい。カトちゃん』
振り向かなくても、声の主が分かった。というか彼の腕と顔が上へ乗っているから、振り向きたくても振り向けないのだが。
彼は、百の友達で加藤という男だ。金髪で軽薄な喋りからは想像し難いが、凰塚製薬の宣伝部部長でもある。
「カトちゃーーん!超スーパーウルトラベストタイミングだよ!!ほら今すぐ着替えて!もう事は始まってるんですぞ!!」
「な、なんだよモモ!俺はまだ来たばっかだそ!」
どうやら最後の選手が決まったらしい。彼のサッカーの腕前は知らないが、百の推薦なら間違いないだろう。
「なぁ春人。あの人誰だ?あんたの金髪仲間?」
『彼は加藤といって、ゲームで怪我をしたとしても大した問題には発展しない男です』
「あぁ、それなら安心ですね」ほ
「2人とも酷いな!怪我をしても問題ない人間なんていないよ!?」
ようやくメンバーの揃った私達は早速、相手チームの待つピッチへと向かった。そして、真っ向から睨み合う。
着いて早々 百に服を剥ぎ取られ、ウェアに着替えさせられた加藤だけが首を傾げている。
「随分と遅かったじゃねぇの。尻尾巻いて逃げ出したのかと思ったぜ?」
「は?なんだ?このクソ感じ悪い奴らは」
「シィーー!カトちゃん!シー!!」
分かりやすく加藤は、相手を凄み上げる。そんな彼を、百は必死に宥めすかす。
すると、おもむろに不良のリーダー格の男が私の前へ歩み寄って来た。
そして右手中指で 私の顎先を、ちょいと持ち上げる。男は、上向かせた私の顔を、さらに上から見下ろした。