第9章 抱いて差し上げましょうか?
本日のスケジュールは、とりあえずキャンセル。私達は小会議室で今後の事について話し合う。
『そう謝って頂かなくても大丈夫ですよ。社長のお小言なんて、左から右に受け流していますから』
「ねぇ、それボク達に言って良い事?」
私の隣に座った天が、真顔でそう突っ込んだ。
「それにしても、アンタはいつも通り平常運転だな。もっと怒り狂うかと思ったぜ」
『冷静さを欠いたら、相手の思うツボですから』
「…冷静、ね」
天は、さきほど私が握り潰して 歪にひしゃげてしまったMONDAYを見つめながら ぽつねんと呟いた。
そんな視線に気付き、私はあせあせと雑誌のシワを必死に伸ばす。
『と、とにかく。もう一度確認させて下さい。十さん。
その写真が撮られた、1週間前の夜の事を』
弾かれたように顔を上げ、龍之介はすぐに説明を始める。
「あ、うん。あの日…、楽と2人で飲みに行った帰りに…」
話をまとめると、こうだ。
彼は楽と別れ、帰宅する為にタクシーに乗り込んだ。
自宅のマンションに到着し、車から降りる。すると、すぐ目の前に 女性がうずくまっているのを発見した。
どうやら酔っているらしかった彼女をほっておく事は出来ず、彼女を抱き起す。どうやら彼女の自宅は、隣のマンション。
優しい彼は部屋まで送ってあげようと、彼女を支えて歩き出した。そこで足がもつれてしまったその女性を抱き留めたところを、激写された。
という流れだ。
「…見事にハメられたね。龍」
天も楽も、言葉に出しはしないが かなり立腹している様子だ。
「プライベートじゃ女の手も握れないって 知ってるのは俺達だけだからな」
そういう事だ。世間が持つ彼のイメージの前では、この写真はとてつもない効力を持つ。