第67章 左手は添えるだけ
私と一織が予想していた通り、そこには面倒臭い展開が広がっていた。
「……なるほど。予約がダブルブッキングでもしたんでしょうか」
『あぁ…ですかねぇ』
そんな事、ありえないだろうと思いつつ生返事をする。きっと一織も、そんな事象が起こり得ないのは承知しているはず。それを分かった上で、穏便に話を収めるつもりなのだろう。
彼は背を屈め、少年達に向き直る。
「私達の仲間が、隣でプレイ中です。この場所は諦めて、一緒に行きませんか。
私が、あなた達も一緒に楽しめるよう掛け合ってみます」
『それはナイスアイデアですね。それしかないという程の素晴らしい案です。
百さん達なら、きっと仲間に入れてくれますよ』
私と一織は、顔を見合わせて頷き合った。全てを言葉にしなくても、思考を通わせられるというのは なんと楽なのだろう。
不良達は、好都合な展開にニヤニヤ顔だ。不本意ではあるが、大切なタレントや重鎮達を巻き込まずに済むのならば万々歳である。100万ドルの笑顔で、握手も交わせそうだ。
「え……どうして…?ボク達、本当に予約ちゃんとしたんだよ?それなのに、ボク達の方が諦めなくちゃいけないの?
ねぇ、なんで?お兄ちゃん、お姉ちゃん」
『お兄ちゃんとお兄ちゃんです』
「今は性別なんてどうでも良いでしょう。
…いいですか?あなた達。私が教えて差し上げます。世の中には、正論がまかり通るシーンと、通らないシーンがあるんです。
今回は後者だ。全力で正面から当たっても、膨大な労力を使わされるだけ。その場合、面倒事は回避した方が効率が良い時もあるんですよ」
非常に理に適った効率論だ。しかし、子供には理解し難いだろう。案の定、彼らは首を傾げた。
「ちょっとよく分からない。
…ボクらの事は、助けてくれないってこと?」
「そんなわけなーーい!」
背中から聞こえて来た溌剌とした声。私と一織は 油の切れたロボットのように、ギギギ…と振り返った。