第67章 左手は添えるだけ
室内からは外の様子が分からない為、時刻も分かり辛い。時計に目をやると、今は午後3時ごろ。30ほどいた人も、今では約半数ほどになっていた。
百によると、この体育館は完全予約制らしい。と いうことは、終わりの時間もキッカリと定められているはずだ。
それは一体、何時なのだろう。そう考え、再度 手元の時計に視線を落とした時。隣に座る一織が口を開く。
「中崎さん」
『??』
「隣のピッチで、何か揉めているみたいです」
この体育館は、ピッチが2面ある。
一織が言ったように、隣は何やら騒ついていた。
見ると、小学生くらいの男児達と、20代前半の柄の悪い男達が、コートの中央で向かい合っていた。どう見ても、これから仲良くゲームプレイしましょう。という空気感ではない。
「…行ってみますか?」嫌な予感しかしませんが
『…まぁ、話を聞くだけなら』嫌な予感しかない
見て見ぬ振りを決め込むのも、悪手に思えた。隣の騒動は、こちらのピッチにまで動揺を及ぼしている。おそらくこのまま放置すれば、誰かは隣へと出向いてしまうだろう。そうなる前に、私と一織が出向く。
まかり間違っても、チンピラ風情に業界の重鎮を近付けさせる訳にはいかない。
私と一織が近付くと、今にも泣き出しそうな男児が顔を上げた。そして 待ってました、とばかりに期待の眼差しを向けてくる。
「……何かあったんですか?」
「なんだ、お前ら。関係ねぇ奴は引っ込んでろ」
清々しいまでの、不良テンプレートである。あまりの雑魚っぽさに、一織もむしろ哀れみの瞳を向けていた。
私は、不良を無視して男児に問い掛けてみる。
『何があったんです?』
「こ、ここは今からボク達が使うって予約してあるのに、この悪い人達が、横取りしようとしてくるんだ!」