第66章 しちゃうか〜結婚!
「よぉっし!ゴーール!ねぇねぇ春人ちゃん!見逃さなかった!?今のオレのスーパーシュート!!」
百の右脚が火を噴いた。そんな時。
私は隣に座った とある婦人と紅茶を楽しんでいた。
「とても美味しいわね。それに体が温まるわ」
『喜んでいただけて幸いです。女性に、冷えは大敵ですからね』
「紳士的なのね。たしか貴方、八乙女さんの所にお勤めのプロデューサーさんよね。眉目秀麗なスタッフがいるって、話に聞いた事があるのよ」
『中崎 春人と申します。ご婦人のような著名な方にお見知り置きいただいているとは、光栄です』
そういうわけなので、百のスーパープレイは残念ながら見逃していた。
「ぎゃー!見てない!清々しいぐらい見てない!!」
「ちょっ、百さん!?んなとこで四つん這いになってないで、早くポジション戻って下さいよ!」
「わっ、百さん!相手の4番、見事にフリーになっちゃってます!」
私がようやくピッチに視線を戻せば、青チームにゴールを決められる場面を目撃してしまう。
そして何故か、悲劇の主人公よろしく 地に突っ伏した百の姿。その背中には、哀愁が漂っている。
そんな百を見て、婦人は笑みをこぼしていた。
「モモくんと、随分 仲が良いのねぇ。彼、なんだか貴方の事をずっと意識しているような気がするわ…
お付き合いは長いのかしら?」
『……』
(あぁ、なるほど。彼女は…)
婦人のキラリと光る目の中から、好奇心や願望、退屈を紛らしたいという欲求なんかの色が透けて見えた。
つまりは、日常ではなかなか味わう事ない、刺激を求めているのだろう。
例えばそう… “ 同性カップルの、禁断の愛 ” とか。
それに気付いた私は、静かに立ち上がる。
『…百 』
「へ…?」呼び捨て?
『頑張って』ちゅ
「〜〜っえぇ!?何それ!なんのご褒美!?そんなの…50点だって取れちゃうよー!」
親指で投げキスをしてから、また腰を下ろす。すると案の定、婦人が鼻息を荒くして私の腕を掴んだ。
「ちょっ!ほ、本当にどういう関係なの!?詳しくっ、詳しくお話を聞かせて頂戴っ!出逢いとか馴れ初めとか色々と…!」
『勿論です。いくらでも語ってお聞かせ致しましょう。貴女のお時間の許す限り』
投網にかかった大物を、私は順調に引き揚げる…