第9章 抱いて差し上げましょうか?
『え…』
さほど広くない会場が、がらんどうだった。
1,2,3,…。私は思わず観客の人数をカウントしていた。その数、わずかに8人。
『…私を入れても、9人か…』
もう開演時間まで間がない。おそらく入ってくる客は、私で最後だろう。
先に入っていた8人は、ステージの真ん前を陣取っているが。私はあえて入り口の前から動かない。狭いこの会場では、このくらいの距離の方が ステージ全体を見渡せる。
すると、箱全体の照明が徐々に落とされる。
彼等が一音を発した瞬間、私は一歩。後ろに下がっていた。
むしろ、その事にも最初気付けなかった。トン、と背中に壁が付いて、初めて気付かされたのだ。
「————♪!!」
『っ、…凄い』
パワフルだ。とても。
箱が小さいから声が響くとか、そういうのじゃ、無い。
キラキラと、光の粒がこの部屋いっぱいに広がって。息をするのも忘れて 溺れてしまいそう。
七人七色の歌声が まるで虹のように広がって、空間を支配する。
私は自分の両腕をさすって、震える体を押さえつける。
「今日は!オレ達のライブに来てくれてありがとう!!楽しんでもらえたかな?
オレ達は、すっごく楽しかったー!」
センターの赤髪の子が、元気良く終幕の挨拶をしている。
あの彼…少し声質が天に似ているような気がする。それは、歌っている時が特に顕著だ。
やがて彼らは、ステージ前に立っている観客8人とコミュニケーションを図りに行った。まぁ、この少人数のライブなら その行動は妥当と言えよう。
私はそっと、背中で出口を押して ライブハウスを後にした。
『………』
まだドキドキして、心臓が踊っているようだ。そんな鼓動に手を当てて 1人呟く。
『…IDOLiSH7…』