第9章 抱いて差し上げましょうか?
私が向かった先は、BAR Longhi's だ。店の前に乱暴にバイクを停めて、すぐに店内へと踏み込む。
『遅くなっちゃいました。まだチケットあります?』
「こんばんは。大丈夫ですよ」
マスターからの返事を聞いて ほっと胸をなで下ろす。すぐさま私は、ライブハウスへと続く階段を駆け下りる。
今日の昼、マスターから連絡が入ったのだ。
内容は、こうだ。
今日の夜 “ あるアイドル ” がライブをする。面白い子達だから、興味があるなら ぜひ。
との事。
マスターは、音楽をこよなく愛す。それは演歌から始まり、洋楽。ヒップホップやアイドルミュージック、ジャズにクラッシックまで。
そんな驚異的な守備範囲を持つ彼にも、絶対のルールがある。それは 自分が気に入った人にしか箱は貸さない。という事。
だから、このライブハウスを使用する為には マスターの試験をクリアしなければならない。従って、今日の出演アイドルは 彼のお眼鏡にかなったのだ。
そして私は、マスターの耳と勘を かなり信用している。
しかも、そんな彼から オススメ されたのは初めての事だ。一体、今日私は…どんなアイドルに出会えるのだろうか。
顔馴染みの、チケットの売り子に話し掛ける。
『こんばんは。今日のアイドルは、マスターのお気に入りらしいね』
「こ、こんばんは!そうみたいですね」
(あれ?このイケメン誰だっけ?)
私は、自分が今 男の格好をしている事を完全に失念していた。
金銭を差し出す。すると彼女は、半券をもぎったチケットを私に手渡す。
『間に合って良かった。チケットも、かなり売れたんじゃない?』
「あー……それが…」
『?』