第66章 しちゃうか〜結婚!
『縁起でもない事を言わないで下さいよ。どうしたら、そんなファンに見捨てられるような状況に陥るっていうんです』
「え…た、例えば、芸能界全部を牛耳っちゃうような凄い人が急に現れて…その人が、あの手この手の卑怯な手段を使って俺達を追い詰めて…新しく出て来たアイドルに人気を奪われる…とか?」
『具体的ですね!
まぁでも、仮に本当にそんな逆張り奇跡みたいな事が起きても大丈夫ですよ』
「どうして?
現実には、そんなに悪い人はいないから?」
『悪い人はいますよ。残念ながら』
「そうかな…」
『でも、そんな悪い人が敵になっても大丈夫です。
私が絶対に、貴方達を守るから』
……いつまで経っても、反応は返って来なかった。その代わりに、笑うような吐息が聞こえた。
さすがに台詞が臭すぎただろうか。少しだけ恥ずかしくなって龍之介を盗み見る。
彼は、やっぱり笑顔だった。嬉しそうで、でも悲しそうな、不思議な笑顔だ。
運転にかこつけて、私は視線を前へと戻す。
その時。携帯電話の呼び出し音が車内に響く。私のではない。龍之介の携帯だ。
正直、ナイスタイミングだと思った。さきほどの笑顔に、私はどういう言葉を紡げば良いか考えあぐねていたから。
『どうぞ』
「後で掛け直すから、大丈夫」
『私の前では出られないお相手なんですね。自宅までなるべく急ぐので、すみませんが もう少し待って下さい』
「君の前で、電話に出られない相手って…」
『私に聞きます?それ。
龍の “ イイ人 ” じゃないんですか?』
「そ、そんな人いないから!」
龍之介は、その大きな体 全身を使って否定した。そして、画面の応対ボタンを押したのだった。