第66章 しちゃうか〜結婚!
「ごめん!気を付けるよ。
2人きりになると、つい名前を呼びたくなっちゃうんだ。
それにしても、徹底してるよね。春人くんの時は 絶対に敬語で、女の子の片鱗すらないから凄いよ。ごっちゃになったりしないの?」
『最近ですよ。エリと春人の使い分けが完璧に出来るようになったのは。
二階堂さんに以前、忠告された事があるんです。
春人ばっかりやってたら、そのうち本当のエリが消えるぞって』
「それは困るな!」
『はは。でも、もう大丈夫ですよ。最近は、そんな不安もなくなりました。両立?というか、切り替えが上手く出来るようになったんです』
2年も仮面生活をやっていると、それなりにコツを掴んでくる。慣れというのは恐ろしいものだ。
『私の話は良いんですよ。貴方は大丈夫ですか?』
「え?何が?」
『何がって…もう、2週間は働き詰めでしょう。3日後のオフまで体と気力、持ちます?』
都合良く赤信号で足止めを食らったので、私は隣の天然男に視線をやる。
彼は、あぁそういう大丈夫ね!と明るく笑う。疲れているはずなのに、どうしてか さっきから楽しそうだった。
「うん、大丈夫。確かに 体は少し疲れてるけど、でも辛くはないよ。天も言ってたけど、ありがたいなって思う。
だって、俺達が忙しいのは、皆んながTRIGGERを好きでいてくれてる証拠だと思うから」
『…そうですね。その通りです』
「だろう?
もし今、俺達を応援してくれてるファンの子達が急に、TRIGGERなんてもういらない。他のアイドルの方が良い。って心変わりしちゃったらどうしようって…たまに想像してしまうんだ。
そんな事になってしまう方が、きっと今の何万倍も、しんどい」
私は、龍之介の恐ろしい想像に身震いした。
そして。
いつも明るく、努力を積み重ねる彼が、密かにそんな仮想に怯えてると知って驚いた。