第66章 しちゃうか〜結婚!
まずは天を送り届け、次に楽の自宅を目指す。
ほどなくして到着すると、楽は お疲れ と労いの言葉を置いて、マンションのゲートの中へと消えた。
その後ろ姿をしっかりと見届けて。私は再度、車を発進させる為に周囲の安全を確認する。すると、龍之介がストップをかけた。
「あ、ちょっと待って」
『はい?』
何を思ったか、龍之介は自ら扉を開けて車外へと出てしまう。そして、またすぐに車内へ戻る。
彼が座ったのは、助手席のシートであった。
「ここにいても、いいかな」
『…どうぞ』
まるで、撫で撫でをねだる大型犬のようだ。そんな顔を向けられては、断ることなど出来るはずがない。
『横になれる後ろに座れば良いのに…。疲れているでしょう』
「疲れてるから、ここがいいんだ」
『そういうものですか』
「うん。そういうものだよ」
今度は、惜しみのない 人懐こい笑顔を見せてくれるのであった。
隣に座った龍之介は、外の景色や携帯などには目もくれず。ただ じっと私の横顔を見つめていた。
『さすがに、それだけ見られたら…ちょっと気になります』
「あ、ごめん!運転の邪魔だったかな」
『いや、それはべつに大丈夫なんですけど…』
「エリは運転が上手で凄いなぁと思って」
『慣れですから、凄くはないですよ。でも…
この格好をしている時は、エリじゃなくて春人と呼んで欲しいです』
龍之介にとっては、格好など大した問題ではないのだろう。
もしかすると彼の中では、2人きりになった時点で 私は春人ではなくエリに変わるのかもしれなかった。