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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第65章 月みたいな人




「九条さん、クランクアップでーす!」

「お疲れ様でした!」

「天くん おつかれー」


労いの言葉が、様々な方向から飛んでくる。それらに笑顔で答えながら、何度も頭を低くする。

そして、両手で抱えなければいけないほどの花束が贈呈される。持って来てくれたのは、昨日ボクに “ お子様 ” と陰口を叩いてくれたスタッフだった。
名前はたしか…


「く、九条さん…撮影、お疲れ様でした」

「いえ。皆さんの協力があればこその撮影でした。お世話になりました」


名前を思い出す前に、会話が始まってしまう。
彼の肩口から向こう側を見やれば、エリがこちらを睨んでいるのが確認出来た。おそらく、またボクが悪意のある言葉で傷付けられているのでは?と、警戒しているのだろう。ナイフのように尖った瞳が、彼の背中に突き刺さっていた。

そんな彼女を安心させる意味も含め、少し大袈裟に笑顔を作ってみたりする。すると、その笑顔を見た男がまた口を開いた。


「あの…昨日は本当に、失礼な事を言ってしまって、すみませんでした!
今日の九条さんの演技見て、オレ…こんな凄い演技が出来る天才に、なんて事言っちゃったんだろって思って…

それに九条さんは こんなにも、天使みたいに優しいのに。オレ、すっかり九条さんのファンになっちゃいましたよ!これからはTRIGGERの事も応援しちゃいますから!」

「それは、ありがとうございます」


ありがたい話だが。
ボクは天才でも、まして天使なんかでもない。たしかに、周りから そう見てもらえるように努力はしているつもりだけれど。

本当のボクは、そうじゃない。
日々 新たな仕事に四苦八苦したり、どうしても欲しい物に手を伸ばして足掻いたりもする、ただの男に過ぎないのだ。

そして、そんな ただの “ 九条天 ” を曝け出せるのは、他でもない。彼女の前だけ。

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