第65章 月みたいな人
『…当たり前だけど、諦めては ないよね』
「当然」
天は膝元から頭を上げて、真っ直ぐに私と視線を合わせた。その瞳には、いつもの力強さが宿っていた。
『良かった。なら、今から一緒に頑張ってみようか』
「ふふ、悪足掻き?」
『そうそう。タイムリミットまでに残された半日足らずで、天の覚醒を信じてね』
「…ごめんね。でも、ありがとう」
ふわりと優しく天は微笑んだ。
さぁ。ここからは、上手く天を誘導する。
“ 私の思い描く展開 ” まで。
汚いと。卑怯だと罵られても構わない。天の成長と、TRIGGERの明るい未来を手に入れる為ならば…
私は何だって差し出せる。
『天馬にあって、天にないものって、何だと思う?』
私は、彼をなるべく天馬に近付けるべく協力して来た。この同棲生活も、そのひとつ。
しかし、私にはまだ残っている。
天にあげられるもの。それは…
“ 経験 ”
「………」
『分かってるでしょう?もう誰にも、お子様だって言われなくなる方法…』
「エリ…」
きっと、天も答えに行き当たっている。
彼の顔からは、とっくに笑顔が消えていて。ぐん、と私の腕を強い力で引く。途端に 端整な顔が近付いた。
「随分と煽ってくれるけど、キミが…ボクを大人にしてくれるの?」
『あはは…甘えないでよ』
今度は私から、天との距離を詰める。互いの顔がもっと近付いて、もう鼻先同士が触れ合いそう。
『周りに担いでもらって大人になった人間は、将来ロクな奴にならないんだから。
…だから、天が自分の力で大人になればいい。私を、踏み台にして』