第65章 月みたいな人
私が言葉を終わらせるのと同時か、それより早いかというタイミング。天が荒々しく唇を合わせて来た。
熱くて柔らかいそれが覆い被さる。くらりと脳の芯が揺れる。しかし、すぐに唇が離された。
「…ボクとは、したくないって言ってたくせに」
『あの時は、必要に駆られてなかったから』
「必要、ね。
理由がどうあれ、そんな瞳で見つめられたら…もう止めてあげられない。
ボクだって、男だよ?」
濡れたような目が、色気を孕んでいる。不思議な迫力を放ち、悠然と私を見下ろした。
九条天という男が、どうしてTRIGGERのセンターというポジションを確立したのか。
楽や龍之介も、グループさえ違えばセンターを張れる器だというのに。どうして天が、真ん中に立っているのか。
答えは…彼に、2人よりも突出した能力があるから。
それは “ 魅せ方 ” の上手さ。
自分の魅力をしっかりと理解しており、見る者を確実に魅了してしまうのだ。
そしてその能力は、今も遺憾無く発揮されている。しかも、いつもは不特定多数に向けられているのに対し、今は…
今は、私 1人だけに向けられている。
こんなのは、無理だ。
魅了される。捕まる。囚われる囲われる。
「エリ…」
丁寧に名を呼ばれれば、それが見えない鎖となる。もう私は、彼から逃げられない。
「キミを抱くよ」