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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第65章 月みたいな人




天は、ぽつりぽつりと言葉を落とす。
丁寧に拾い上げてやらないと、そのまま空中で消えてしまうような、儚い声だった。


「だから、今から少しだけ…格好付けること、やめる」

『…うん』


相変わらず彼の腕が邪魔をして、表情が分からない。だから、私は天のサラサラの髪をゆっくりと撫でる。天の不安を取り除く為ではない。私の不安を解消する為だった。

それから、たっぷりと間を置いてから、彼は告げた。


「分からないんだ。
天馬の気持ちが。行動が」

『……どうして彼が、あそこで泣いたのか 分からない?』

「うん。
愛しい人と繋がる事が出来た直後、どうして彼は涙を流したのか。嬉しかったのか。想いが溢れたのか。色々と想像してみたけど、どれもピンと来なかった。

監督のオーケーが出なかったのは当然。だって、役の心情を理解してないまま演じたんだから。
目から涙を零せと言われたら、いくらだって泣いてみせられる。でも、人の心を動かす演技ってそうじゃない」

『うん、そうかもしれないね』

「自分の中で、きちんと役を落とし込んで。心を共有して、九条天ではなく姫条天馬として動かないと 意味がないんだ」


天馬が何故あのシーンで涙したのかという理由。実は、ドラマの中でもそれは明かされない。
見る人によって、きっと色々な解釈が生まれると思う。

しかし。いくら正解がないからと言っても、演じる人間は 確固たる答えを心に宿しておかなければならない。
何故ならそれが、演者の務めだから。


「ボクは、自分の力で答えに辿り着かなくちゃいけない。人から聞いた答えじゃ駄目だ。
自分の考えで、天馬の心を理解しなくちゃいけない」

『…そっか。それが出来なくて、天は苦しんでたんだね。
教えてくれて、ありがとう』


天は、自分の心の柔らかい部分を見せてくれた。

考えろ。それを踏まえ、私が彼に何をあげられるのかを。

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