第65章 月みたいな人
私がリビングへ戻ると、すっかりテーブルの上は綺麗だった。こちらに気付いた天が、ゆっくりと振り返る。
「キミが急いでいなくなるから、言いそびれた。
美味しかったよ。ご馳走さま」
『そっか…よかった。
片付けさせて、ごめんね。ありがと』
すとん、と私はカーペットの上に正座する。そして、自分の膝をポンポンと2回叩いて天を呼ぶ。
『さぁ来い!』
「キミって本当に脈絡がないよね!」
『じゃあ説明しよう。
どうやったら頑張り屋さんの天を甘やかせるかなって考えた結果が…膝枕だったの。それにほら、なんか恋人っぽいでしょ?』
「……まぁ、それは確かに 何よりのご褒美かな」
天はコロンと寝転がって、私の膝の上に頭を乗せた。
『どう?癒されてる?甘やかされてる?あ、高さは大丈夫?』
「ちょっと静かにして」
天は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸する。蓄積された疲れが染み出しているみたいに、長く長く、息を吐いた。
そんな彼を、私は見下ろす。
今は顔の上に腕が乗せられていて、目が隠れてしまっている。だから表情が読み取り辛かった。
かろうじて見えている口元が、動く。
「…さっきの言葉、千さんにも言われたんだ」
『さっきの言葉?』
「キミが言うように どうもボクは、仲間に格好悪い自分を晒したくないらしい」
『…千さんにも、そう言われたの?』
「うん。格好付けるな、そんなのは独り善がりな気持ちでしかないって」
『私はそこまで言ってないからね!?』