第64章 首を絞めたくなりました
『私だって、真面目に答えてる。天の、色んな面が見れるのは嬉しいよ』
「窮地に追いやられても?」
『窮地は、乗り越えれば成長出来るチャンス。私は信じてるよ。天ならこのピンチの壁を飛び越えて、また一歩 大きく成長してくれるって』
過度な期待は、時に人を追い詰める。でも天は、その程度の期待で押し潰されるような男ではない。
むしろ、その期待を力に変えて 前へ進んでくれるだろう。現にいま私の目の前で、力強く頷いていた。
だから、そのまま言葉を続ける。
『どの口が言うんだって、思われるかもしれないけど…
天は、完璧を求め過ぎてる。完璧な姿しか、周りに見せちゃいけないと思ってる。私や、楽や龍には特に。
もっと、見せて欲しいよ。天が悩んでる姿を。
教えて欲しいよ。天が、今どんな事で苦しんでるのか。
千さんには、相談したんでしょう?
私は、がっかりなんてしないけど…それは、少し寂しかった。千さんには話せて、私達には言えないんだなぁって』
「エリ…」
勢いで話してしまったけれど、言い終わってから恥ずかしさが襲った。
あの人には言えて私には言えないの?なんて、駄々をこねる子供のようではないか。妬きもちを焼いているみたいで、なんだか今更 顔が熱い。
『ご馳走さま!私もお風呂入ってくる』
正座をして固まる天から逃げるように、私は浴室へと向かうのだった。
熱い湯を頭から被って考える。
あんなふうに一方的に話して、彼を困らせてしまっただろうか。
お疲れの天を癒してあげたいと思っていたのに、これでは逆効果では?
風呂から上がったら、今度はもう少し上手くやろう。今日 楽屋で宣言した通り、懸命に頑張る彼を、私がたくさん甘やかしてあげるのだ。