第64章 首を絞めたくなりました
コツン。と、頭に軽い衝撃が落ちて来る。
「やりすぎ」
『……天』
後ろから私の頭を小突いた天。スタッフ2人と私の間に、すっと割り込んだ。
彼らは、より一層 身を硬くする。そんな2人に、天は頭を下げた。目玉がこぼれ落ちそうなくらい目を見開いたスタッフに、凛とした声で語り掛ける。
「ボクの力が至らないばかりに、スタッフの皆さんにはご迷惑をおかけして。本当に、申し訳ありません」
「ちょっ、いやそんな!頭を上げて下さいよ!」
「そうですよ!!大体…悪いのはイライラして九条さんに当たってしまった自分達でっ」
『そうだそうだ』
「はぁ… プロデューサー」
『……』
「ハウス」
『……わん』
主人により帰宅命令の出された私は、仕方なく その場を後にする。
しかしやっぱり3人が気になって、後ろを振り返る。
天は相変わらず頭を下げていたし、スタッフ達は恐縮した様子で何度も腰を90度に折り曲げていた。
…軽い後悔を覚えた。
私が怒りに任せてしゃしゃり出なければ、天に頭を下げさせる事もなかったのではないだろうか と。
『私から取り上げたコーヒーはどこへやったんです?』
「楽屋へ戻って来たボクにかける第一声がそれ?」
天は呆れた様子で扉を閉めた。その手にコーヒーは握られていない。
「突然いなくなったキミを追い掛けるのに必死で、近くにいた誰かに押し付けるようにあげちゃったよ」
『まぁ酷いですね。私がせっかく貴方の為に購入したというのに』
「そう思うなら、もうあんなふうに暴走しないで」
『面目無いです。何をしたら許してくれます? 3回まわってワンって鳴いてみせましょうか』
「見たいところだけど、いいよ。許してあげる。
自分の代わりに誰かが怒ってくれるのって…意外と悪くなかったから」